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寺田本家『発芽玄米酒むすひ』こだわり解明~精米歩合100%の科学と産霊の生命力【後編】

スタッフライター:こじ

【前編のあらすじ】


~制御不能な「生命」との遭遇~

本記事は、千葉県香取郡・寺田本家が醸す異端の酒
『発芽玄米酒 むすひ』実録レポートの【後編】です。

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寺田本家 発芽玄米酒 むすひ 720ml


【前編】において、筆者とテイスティング担当Y氏は、この酒が持つ規格外のエネルギーに翻弄されました。
「開栓注意」のタグが警告する通り、栓を回した瞬間に噴き出す爆発的な泡……それは開栓だけで10分以上を要するほどの格闘でした。

そして、ようやく口にしたその液体は、私たちの知る「米から醸造した酒」の概念を根底から覆すものでした。

「飲み物ではなく、食べてる感覚」
「熟成し尽くした濃厚なハムの肉汁のような……」
「おつまみが要らない(これ自体がメインディッシュでもあるから)」

米と水だけで造られたはずの醸造酒から、なぜ動物的な「肉」のような風味がし、なぜこれほどまでに細胞が歓喜するのか?

後編となる本記事では、前編で残された“謎”の正体を、寺田本家が貫く「常識破りのスペック」と、古神道に由来する「産霊(むすひ)」の哲学から解き明かします。

なぜ、寺田本家はこの“扱いづらい”酒を造る運命となったのか?
そのこだわりの深淵へと、ご案内します。


▶ まだ【前編】を読んでいない方はこちら

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【第3章:“常識破り”のこだわり解明】

~玄米を「磨かない」という、常識破りの挑戦~

「飲み物ではなく、食べ物」 「熟成したハムの肉汁」

Y氏の舌と鼻が捉えたその不可解な感覚――
米と水だけで造られた液体から、なぜ動物性のタンパク質を思わせる濃厚な旨味がしたのか。

その答えの一端は、ボトル裏面のラベルに記載された、ある「たった一行のスペック」に隠しきれず顕れていました。

そこには、既存の日本酒造りの常識からはおよそ算出されないはずの数字が刻まれています。

『精米歩合:100%』

通常、私たちがよく知る「綺麗な日本酒(吟醸酒など)」は、玄米の外側を削って削って、中心のデンプン質だけを残して醸造します。
例えば巷でよく見る「精米歩合50%」というのは、元の玄米から、ちょうど半分にあたる50%分の重量を削り落としてから仕込むということです。

なぜ米を磨くのか?
それは、玄米の外側にあるタンパク質や脂質が、酒の「雑味(ざつみ)」の原因になるからです。
雑味を消し、スッキリとクリアな味にするために、米を磨く……これが近代酒造りのセオリーであり、実食前のY氏が想定していた「サラッとした喉越し」の源泉です。

しかし、寺田本家はその“真逆”を行きました。

玄米を一切削らない――
つまり、タンパク質も脂質もミネラルも……玄米が持つ「生命維持に必要な栄養素」を、すべて残したまま仕込むのです。

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※画像提供:寺田本家


これが、『むすひ』の究極のこだわりの源泉、「発芽玄米麹」です。
その色味は、まさしく生命力あふれる黄土色の玄米そのものです。

ここで、謎の点と点が、線で繋がります。
タンパク質は、発酵の過程で分解されると、何に変わるか?

――そう、旨味成分の「アミノ酸」です。

一般的な日本酒が、タンパク質を削ぎ落として「綺麗さ」を追求する引き算の美学だとしたら……
『むすひ』は、玄米の膨大な生のタンパク質をすべて微生物のエサとして与え、麹菌が産み出す酵素の力で分解させ、爆発的な生命のアミノ酸へと変換させる足し算……いや、「掛け算」の結晶なのです。

Y氏が感じた「肉汁」や「スープ」のような味わい。
それは、玄米のタンパク質が蔵の中で分解され尽くした結果生まれた、微生物たちの生命活動の塊そのものの味だったのです。

この精米歩合100%が「雑味」か「旨味」かなどという議論は、この圧倒的な質量の前では無意味でしょう。
それはまさしく、唯一無二の「個性」そのものです。

~「酸」は、生命を守るための盾~

しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。

タンパク質を分解して濃厚なアミノ酸のスープを作るだけなら、それは単に「重たくてクドい液体」になる恐れがあります。
また、それほどまでに栄養価が高い液体は、通常であれば雑菌にとっても格好のエサとなり、発酵というより“腐敗”してしまうのではないでしょうか。

なぜ『むすひ』は、腐ることなく酒になり、そしてY氏をして「おかわり」と言わしめる奇跡的なハーモニーを実現していたのか?

その答えこそが、もう一つの常識外れなスペック――
「酸度」にあります。

一般的な日本酒の酸度が「1.5」前後であるのに対し……
『むすひ』の酸度は、なんと「7~13」という桁違いの数値を叩き出しています。
通常の日本酒なら「酸っぱすぎて飲めない」と判断されるであろうレベルの異常値です。

しかし、強烈な酸味があるにも関わらず、Y氏はそれを単なる『酸っぱさ』とは捉えず、『肉汁(旨味)』の一部として受け入れました。

その謎は……この酸の正体が、単に刺激的な酸だけではなく、ヨーグルトやチーズと同じ、旨味を包み込む「乳酸」の主演によるものだからです。

寺田本家は、自然界に存在する乳酸菌を取り込む、蔵独自の「自然発酵」を貫いています。

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※画像提供:寺田本家

ぷつぷつと湧き上がる泡は、数え切れないほどの微生物が呼吸をしている証――
この生命のエネルギーが、そのまま瓶の中に封じ込められています。

蔵に棲み着いた天然の乳酸菌たちが、玄米という栄養の塊を雑菌から守るために、猛烈な勢いで乳酸を作り出し、タンクの中を酸性で満たす……
その酸の“盾”の中で、酵母たちは安心して活動できるのです。

Y氏が感じた形容しがたい味わいの正体――
それは、爆発的な「アミノ酸(肉のような旨味)」というボディを、強烈な「乳酸(ヨーグルトのような酸)」という骨格が支えているという有機体でした。

旨味だけでは重すぎる――
酸だけでは鋭すぎる――

しかし、この二つがどちらも桁外れなレベルで拮抗し共生することで、まるで熟成肉や濃厚なチーズのような、奇跡的なバランスが成立していたのです。

「まずい」と感じる人がいるとすれば、それは日本酒という「水」を期待して、この「濃厚な生命スープ」を飲んでしまったからでしょう。
しかし、ひとたびこの「食べる感覚」をもたらす構造を理解し、身体が受け入れれば……

それは、「代わりの効かない唯一無二の体験」となるかもしれません。

※註1:『むすひ』は、生きたお酒であるがゆえに、その時々によって味わいが変わるという特色もあります。
それゆえ、瓶内での発酵の進み方次第では酸味が強く感じられる可能性もありますが、それもまた「一期一会の個性」としてお楽しみください。

※註2:『むすひ』の製法は、同蔵の『五人娘』や『香取』などで用いられている伝統的な「生酛造り(きもとづくり)」ともまた異なる、寺田本家独自の自然発酵の手法がとられています。

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【第4章:発酵道~なぜ産霊が生まれた?】

~「生命力」への原点回帰~

「精米歩合100%」「酸度10超え」「強烈な肉の旨味」……

第3章までで解き明かしてきた通り、『むすひ』は現代の酒造りのセオリーをすべて無視したかのような、規格外の存在です。
全国的に確立された醸造法に比べると、生産効率も悪く、画一的な扱いも難しく、味の好みも大きく別れることでしょう。

では、なぜ寺田本家は、あえてこのような困難な酒造りに挑んだのでしょうか?
単に「変わった酒」を造って目立ちたかったから?

――いいえ、決してそうではありません。
その誕生の背景には、切実な「信念」の物語がありました。

『むすひ』誕生のきっかけは、先代当主である故・寺田啓佐(けいすけ)氏の実体験に遡ります。
かつて寺田家に婿入りした先代は、効率重視の近代的な酒造りで利益を追求しましたが、何をやっても上手くいかなかったそうです。
そうして蔵の経営も危ういさなか、自身も体調を大きく崩し、生死を彷徨うほどの大病を患いました。

その時、彼を救ったのが「玄米」を中心とした食生活と、自然の摂理に沿った生き方でした。

「生命力」――
健康を取り戻した先代は、そう確信しました。

玄米を健康な土壌に蒔くと、自然に芽が出て、根が出て、実になっていきます。
「一粒万倍」の言葉の通り、一粒が千倍にも万倍にもなる源こそが、「生命力」であるといえます。

その想いが、寺田本家を「発芽玄米酒」という、険しくも美しい道へと突き動かしたのです。

~古文書が示した「火無浄酒」~

しかし、玄米そのものを酒にするなど、言うは易く行うは難し――
硬い表皮に覆われた玄米は、麹菌が非常に繁殖しにくく、溶解もしません。

試行錯誤を繰り返す中で、一筋の光明となったのが、かの伊勢神宮に伝わる古文書の記述でした。
そこには、麹を使わずに玄米を発芽させて造る古代の御神酒「火無浄酒(ほなしのきよさけ)」の存在が記されていたといいます。

「そうか、玄米を水につけて発芽させればいいんだ」

古代の人々は、玄米を水に浸して発芽させ、自らの酵素で糖化させる術を知っていたのです。
この先人の知恵と、蔵独自の技術を融合させ、実に7年もの歳月をかけて完成したのが、この『むすひ』でした。

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※画像提供:寺田本家

~「産霊(むすひ)」という名に込めた哲学~

そうして生まれたこの酒に、蔵元は『むすひ』という名を授けました。

「むすひ(産霊)」とは、古神道における言葉で、「万物を生み出し、育み、発展させる宇宙の根源的な力」を意味します。

そして同時にそれは、「結び(むすび)」でもあります。

大地から生まれた「玄米」という生命。
蔵の空気に棲みつく「微生物」という生命。
そして、それを醸す「人」の生きた手。

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※画像提供:寺田本家

誰かが誰かをコントロールするのではなく、異なる生命同士が対等に関わり合い、調和の下で「結ばれる」ことで、新たな生命(酒)が産まれる……

私たちが第1章で直面した、あの制御不能なほどの泡のエネルギー。
そして第2章でY氏が感じた、細胞が歓喜するような肉の旨味。

それらはすべて、この瓶の中で、今もなお玄米と微生物たちが「結ばれ」、懸命に命を燃やし続けている証だったのです。

私たちは、単にアルコール飲料を飲んでいたのではありません。
寺田本家が提示する「自然との共生」という哲学そのものを、五臓六腑で受け止めていたのです。

『人は自然の中の生きものである。
 自然に学び自然に沿って謙虚に生きよ。』
(「寺田本家家訓」より引用)

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『むすひ』生みの親、先代当主・寺田啓佐氏※画像提供:寺田本家

【産霊の結び】


「うまい」か「まずい」か。
それは嗜好の問題です。

しかし、現代社会において、これほどまでに純粋に「生命」と向き合い、ありのままの生をボトリングされた液体が、他にあるでしょうか。

もし、あなたがこの“唯一無二”の体験を「身体が欲している」と感じたなら……
それはあなたの細胞が、本来あるべき野生の生命力(産霊)を思い出そうとしているのかもしれません。

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前編はこちら

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寺田本家  発芽玄米酒 むすひ 720ml

寺田本家 発芽玄米酒 むすひ 720ml

¥1,815

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